天の川を巡る旅 (1)
Figure 1: 可視光でみた天の川 (Multiwavelength Milky Way –NASA–)
天の川銀河の全体像
夜空の中で最も大きな天体は、全天を360度に渡って流れる天の川です。英語ではミルキーウェイ(Milky Way = 乳の道)とよばれ、淡くぼんやりとした白い帯に見えます。しかし、光害のない暗い場所で、透明度が高く月のない夜であれば、入り江や中州のような細かい構造や、雲のような星団を肉眼で確認することができます。双眼鏡を使えばより壮観な姿を見ることができます。
天の川は、地球や太陽が属している銀河系(天の川銀河)を真横から見た姿です。天の川銀河は、緩く巻かれた明るい渦状腕と比較的小さな中心のふくらみ(バルジ)からなるSBc型渦巻銀河だと考えられています。銀河円盤の直径は約10万光年で、太陽系はその中心から2万5千から2万9千光年の位置にあります。渦状腕の厚さは1千5百光年足らずで、滑らかに広がった3、4千光年ほどの厚さの円盤に埋もれています。銀河中心に位置するバルジは厚さ8千光年、幅1万光年のやや扁平した球状構造をしており、あいまいな棒状構造(バー)に埋もれています。このバーは、銀河中心への視線方向に対して10度から40度の傾きしかなく検出が困難です。二つのバーが重なって見えていると考える研究者もいます。バルジも銀河円盤も、外側に行くにしたがって星の密度はなだらかに減少していくため、その境界は曖昧で、サイズを明確に決めることはできません。
Figure 2: 天の川銀河の想像図
天の川銀河には1千億個から1兆個の星が含まれており、そのほとんどは太陽より小さくて暗い星です。すべてを合わせた明るさは太陽の150億倍以上で、絶対光度にして-20.5等級に相当します。天の川銀河の明るさはほぼ星の光によるものですが、星は銀河の質量の一部を占めているに過ぎません。星間ガス(大部分が水素とヘリウム)とダスト(微細な粒子)を合わせた質量は星の総質量に匹敵します。ダストは質量比で僅か1%しか存在しませんが、可視光をブロックするため、銀河の見た目や進化に多大な影響を及ぼします。水素とヘリウムはほとんどの波長において透明です。
天の川銀河は、大きさ、明るさ、重さにおいて平均的な銀河を上回っています。天の川銀河の属している局所銀河群において、同じ規模の銀河はアンドロメダ銀河(M31)だけで、その他にはやや小さな銀河が一つ(M33)と数十個のずっと小さな銀河があるのみです。
森の中にいてその全体を捉えるのが難しいのと同じで、アマチュアのみならずプロの天文学者にとっても、天の川銀河の構造を完全に解明するのは困難なことです。上記のような概略は数十年前から知られていましたが、その詳細は未知の部分も多く、依然議論の余地があります。
地球から見える天の川の姿は、銀河面に沿った明るい星雲/星団の分布を示すとともに、太陽周辺の銀河構造を反映しています。まるで天球に描かれているように二次元で見えていますが、一見隣り合っていたり、重なっているようにみえる天体も、実際には異なった距離に位置しています。
これから数回に渡り、天の川に沿って見える天体を辿っていきながら、天の川銀河の構造を解説していきます。
参考文献
- Observing The Milky Way, Part I – Sagittarius & Scorpius –, Craig Crossen, Sky and Telescope, Jul. 2013
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