Ia型超新星爆発の起源
近年の盛んな研究により、Ia型超新星爆発の起源に関する議論が熱を帯びてきています。
光度が一定で明るいIa型超新星は、宇宙の起源を探れるほど遠方までの距離を赤方偏移とは独立に測ることができる指標として極めて重要な天体です。 1998年、宇宙がある一定の加速度で膨張しているという発見に寄与したことで一役注目されるようになりました。 しかし、その爆発の起源に関しては謎に包まれたままです。 超新星爆発が少なくとも一つの白色矮星の自己崩壊によって引き起こされるという点では、研究者の見解は一致しています。 しかしながら、白色矮星を熱核爆弾に変える具体的なプロセスに関しては、四十有余年に渡って議論が続いており決着をみていません。
有力な説として、白色矮星は通常の恒星と近接連星を成しており、この伴星からガスが供給され爆発が起こるという説が提唱されています。 供給されたガスによって、白色矮星の質量がチャンドラーセカール限界(Chandrasekhar limit)を超えると、白色矮星は潰れ始めます(重力崩壊)。 チャンドラーセカール限界とは電子の縮退圧が星の重さを支えきれる最大質量で、太陽質量の1.38倍に相当します。 この収縮によって核融合反応の暴走が始まり、瞬く間に星全体に伝搬し完全に破壊されるというものです。
一方、近年支持を得ているのが、白色矮星同士の近接連星が最終的に合体し爆発を起こすという説です。 この説でもチャンドラーセカール限界を超えることが超新星爆発の引き金となると考えられています。
Carlos Badenes(ピッツバーグ大学)とDan Maoz(テルアビブ大学、イスラエル)は、この白色矮星連星説によって実際の超新星爆発の頻度が説明できるか否かを確認するため、Sloan Digital Sky Surveyのデータを用いて、銀河系内の4000個の白色矮星に対して調査を行いました。 その結果、15個の白色矮星に極端なドップラー効果の特徴が見られ、見えない伴星の周りを毎秒250km以上のスピードで回転していることが明らかになりました。 これらは互いに高速で廻る白色矮星の近接連星である可能性が高く、最終的に合体する運命にあると考えられています。
BadenesとMaoz両氏は連星の合体頻度を百年に一個と推定しました。これは天の川型銀河でのIa型超新星爆発の頻度とほぼ一致します。 この一致は白色矮星の合体がIa型超新星を起こすことを証明するものではありませんが、発生頻度としては十分であることを示しています。
他にもこの白色矮星連星説を支持する研究結果が報告されています。 スイフト(Swift)衛星による観測によって、Ia型超新星爆発からは進化の進んだ星や大質量星の伴星が存在している場合に期待されるX線や紫外線が検出されないことが明らかになっています。 このことは、より小さな恒星か白色矮星などの矮星がIa型超新星の元となる白色矮星の伴星である可能性が高いことを示しています。
- 'New Fuel for Supernova Debate' Sky and Telescope誌, 2012年6月